発信者情報開示請求について

発信者情報開示請求の相手方

 発信者情報開示請求は、当然発信者情報を持っている者に対して行います。

 電子掲示板やSNSやブログに名誉毀損投稿がなされた場合でいうと、その電子掲示板やSNSやブログを運営している事業者(コンテンツ・プロバイダ。CP)と、その投稿者が利用したインターネット接続サービス事業者(アクセス・プロバイダ。AP)がこれに当たります。

 独自ドメインを用いて構築したウェブサイト上で名誉毀損文言を含むウェブページが掲載された場合、そのウェブサイトに用いられているサーバコンピュータのレンタル事業者がこれに当たります。

 その独自ドメインについてWhois情報隠蔽サービスが用いられている場合、ドメイン名取得代行業者に対し発信者情報開示請求を行うことができるかは問題となり得ます。ドメイン名取得代行業者が提供するレンタルサーバがそのサイト構築のために用いられていれば問題なくできるのですが、ドメイン名取得代行業者とは別の事業者が提供するサーバが利用されている場合、ドメイン名取得代行業者自体は、問題の名誉毀損情報の送受信を媒介していないので、情報プラットホーム法上の開示義務者ではないということになります。

 もっとも、具体的な通信と離れた、ドメイン名保有者の氏名・住所等に関する情報については、電気通信事業法上の「通信の秘密」に当たらないので、ドメイン名取得代行事業者がこれを開示しても、刑事罰を受けることはありません。このため、ドメイン名取得代行事業者が国内企業である場合、ドメイン名取得代行事業者に対し弁護士法23条による照会を行うことによってその保有者の氏名・住所の開示を受けられることがあります(GMO系のMuuMuu DOmainの場合、規約第30条4項に、「甲は、警察官、検察官、検察事務官、国税職員、麻薬取締官、弁護士会、裁判所等の法律上照会権限を有する者から照会を受けた場合、緊急避難または正当防衛に該当すると甲が判断するときは、法令に基づき必要と認められる範囲内で個人情報等の照会に応じることができます」との規定があります。お名前.comのドメイン登録規約には、13条5項に「当社は,警察官,検察官,検察事務官,国税職員,麻薬取締官,弁護士会,裁判所等の法律上照会権限を有する者から照会を受けた場合は,第3項の規定にかかわらず,会員に通知することなく法令に基づき必要と認められる範囲内で会員情報等を開示することがあります。」との規定があります。ですから、ドメイン取得代行業者が国内企業の場合、まず、弁護士会照会を行ってみるということになります。

電子掲示板等に投稿された場合の発信者情報開示請求の順番

 電子掲示板やSNSやブログに名誉毀損投稿がなされた場合、CPがどこの誰であるのかは、Whois情報隠蔽サービスが用いられていない限り、whoisデータベースで確認できます。電子掲示板やSNSやブログサービスの運営会社のほとんどは、逃げ隠れもせず、その名称と本店所在地を明示している場合が多いので、whoisデータベースに頼る必要もないことが多いです。

 これらのCPが、投稿者の氏名・住所を特定するのに有益な情報を持っている場合には、これらのCPを相手方とする発信者情報開示命令兼消去禁止命令申立を行えば足ります。ただ、問題は、これらのCPは、投稿者の氏名・住所を特定するのに有益な情報を持っていないことが多いということです。誰もが投稿可能な電子掲示板の場合、投稿者の個人情報を収集する機会がありません。SNSやブログサービスの場合、会員登録を先にしてもらうので、その際に一定の個人情報を収集するのが一般的です。しかし、無償サービスの場合、CP側も、利用者が登録時に入力してきた情報の真実性を確認することを基本的にしません。で、最初から名誉毀損投稿を行うつもりで会員登録する人たちは、最初から、正しい個人情報など入力しません。登録時にメールアドレスの入力を求めるCPも少なくありませんが、Gmailアドレスなど、個人情報を秘匿したまま何個でもアドレスが取得できるタイプのものが用いられている場合、登録時に入力されたメールアドレスの開示を受けても、そこから先、投稿者の氏名・住所に辿り着くことができません。CP側で、アカウント乗っ取りを防ぐための二段階認証としてSMSを使用してくれている場合には、SMSのアドレス=スマートホンの電話番号の開示を受けることができる可能性が高く、その場合、その電話番号を割り当てた電話会社に弁護士会照会を行うことで、投稿者の氏名・住所に辿り着くことがあります。

 また、登録当初は名誉毀損等を行う気がなかった場合には、正しい個人情報を入力している場合があります。とりわけ、他の便利なサービスと共通するIDを用いて投稿を行うスタイルの場合、当該サービスを受けるのに必要な範囲内で、正しい個人情報を入力している場合があります。例えば、Yahoo!JAPANの掲示板に投稿する場合、Yahoo!IDを用いてログインしてから投稿することになるわけですが、Yahoo!オークション等にそのYahoo!IDで参加している場合、正しい氏名・住所を登録時に入力している可能性が高まります。せっかく落札した商品が届かなくなる危険がありますので。ですから、最初から諦めたりせず、登録時に入力することになっている個人情報はひとまずCPに対する開示請求の対象に含めておくのが常道です。

 その投稿者がどのAPを使ってその投稿を行ったのかは、その投稿に用いられたIPアドレスをアクセスログの中から抜き出すことによって特定します。で、それができるのは、その投稿がなされたCPだけです。

 CPに対する発信者情報開示請求を行えば、原則として、その投稿に用いられたIPアドレスの開示を受けることができます。ただ、CPに対する発信者情報開示請求訴訟を提起しても、判決を得てIPアドレスの開示を受けるまでには早くても数ヶ月かかります。その間に、AP側のアクセスログが消されてしまうので、それでは、発信者の氏名・住所を特定することができなくなってしまいます。

 このため、以前は、CPを債務者とする発信者情報開示仮処分の申立てをするという運用が広く行われていました。IPアドレスを開示したところで、それだけでは発信者がどこの誰かを特定することは通常できないので、その程度であれば仮処分で開示を命じても良いだろうと考えられたからです。

 その後法律が変わり、現在では、CPに対し、発信者情報開示命令兼提供命令申立を行うというのが基本になっています。提供命令申立を行うと、CPは、その投稿に用いられたIPアドレスから、どのAPがその投稿に用いられたのかを開示請求者に通知することになっています。そして、開示請求者がそのAPを相手方とする発信者情報開示兼消去禁止命令の申立を行い、その旨をCPに通知すると、CPからAPに、当該投稿の投稿者をAP側で特定するのに必要な情報(IPアドレス等)が提供されることになっています。それらの情報をCPから提供されたAPは、その投稿の発信者を特定できるかどうか調査し、もう特定できなくなっている場合はその旨を開示請求者に通知し、特定できた場合はその発信者の氏名・住所に関するデータを、発信者情報開示命令申立事件が決着するまで、保有し続けるということになります。もっとも、大手のAPは、1つのIPアドレスを同時に複数の顧客に割り当てるのが普通になっているので、今では、提供命令の対象をIPアドレスと投稿日時だけでなく、同じ時間帯に同じIPアドレスの割り当てられた複数の顧客の中からさらに絞り込むのに必要なデータを含めるのが一般的です。

 また、X(旧Twitter)のように、個々の投稿に関してはアクセスログを保有せず、そのSNSサービスにログインしたときのアクセスログしか保有していないという事業者が増えたので、法改正がなされ、今日では、名誉毀損投稿を行った投稿者がログインしたときのIPアドレスとログイン日時について、発信者情報開示請求や提供命令の対象とすることができるようになっています。APは短期間のうちにアクセスログを消去してしまうので、できるだけ新しいログイン時のIPアドレス等を開示を受けられるような工夫が必要となります。

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