このページは、弁護士小倉秀夫による、法律問題に関するQ&Aを掲載したものです。具体的なご相談やご依頼については、こちらのフォームをご利用ください。
私は、Xで「○○」というアカウント名を用いて長らく投稿してきました。フォロワーもたくさんいます。ある日、ある弁護士から私についてのデマを含む投稿を受けました。一応、抗議をしましたが、「匿名の者に対する名誉毀損は成立しない」と言われました。本当に泣き寝入りをしないといけないのでしょうか。
名誉毀損等は、かなり特殊な領域で、事件処理の経験がある弁護士はそんなに多くないので、弁護士であっても適当なことを言う人は少なくありません。
人は、実際にはいろいろな名前と紐付けて社会活動を行い、その名前と紐付いた形で社会的評価を形成していきます。典型的なのは、芸能人の芸名、作家のペンネーム等です。芸名やペンネームは、戸籍上の名前と異なっていても、それらと紐付いた形で社会的評価が形成されるので、芸名やペンネーム等で相手を特定した形でその社会的評価を低下させる言動がなされれば、名誉毀損が成立します。仮に、そのペンネーム等を名乗っている人物の戸籍上の氏名が広く知られていなくても同様です。典型例としては、「香山リカ」のペンネームで言論活動を行っている精神科医が日本文化チャンネル桜を名誉毀損で訴えた事件で、東京地裁、東京高裁、最高裁とも、名誉毀損の成立を認めています。
SNS等のアカウント名であっても、そのアカウント名と紐付いた発言が相当量あり、そのアカウント名と紐付いた形で社会的評価が形成されていると認められる場合には、そのアカウント名で相手を特定した形でその社会的評価を低下させる言動が行われれば、名誉毀損が成立します。まあ、そこまで行かない、電子掲示板での匿名さんとか、SNSにおける捨て垢のように、特定の名称と紐付き、社会的評価が形成されうる人格が認められない場合は、名誉毀損は成立しませんが。
もちろん、訴訟を提起するときは、原告の氏名として戸籍上の氏名を訴状に記載しなければいけませんし、原告自身がそのアカウントの保有者であることを主張・立証していかないといけません。その過程で、自分の戸籍上の名前及び住民票上の住所が相手に知られる覚悟は必要です。もちろん、今の民事訴訟法には、住所、氏名等の秘匿制度があるのですが、アカウント名を用いて自由に表現活動をしている人が、そのリアル社会での人格と紐付けられたくないという程度の話だと、「被告・相手方等に自らの住所等又は氏名等が知られることによって、社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがある」とまで認めてもらうのは難しいかなとは思います。相手が暴力団員だったり、新興宗教団体だったりした場合ならともかく、弁護士にできることは、裁判手続きを利用して権利行使することくらいですから。